「採用人事戦略」を考える ~企業は生き残りをかけ、どう考えるか~

1 環境の変化と人材戦略

 約35年間、人材ビジネスに携わってきて思うことですが、「雇用環境」は表情を変える「生き物」であるということです。 様々な要因において常に変化し、特に景気動向が翌年の雇用環境に大きく影響します。
いかにして先を読むかということが経営者および人事・採用の責任者には求められます。
かつての景気低迷・就職氷河期時代を振り返ると、当時、企業は生き残りをかけ、事業廃止、縮小、人員削減、資産売却などのリストラクチャリングを進め、 その一方では、「第二創業」といわれるように新規事業など未来に向けた施策を打ち出しました。
人事面においては年功序列から成果主義、そしてコンピテンシー評価への移行に代表されるように、従来の年功に重きをおいた処遇から業績・行動面による評価に大きく変わりました。
雇用形態も多様化し、「正社員」のみの採用から、非正規社員「契約・アルバイト、パート、派遣、委託等」の活用が浸透したのは周知の通りです。
しかし、その後の団塊世代大量退職、少子高齢化、景気回復による採用難、働き方改革等、様々な環境外部要因・企業内部要因によって、正社員雇用中心へ見直しを図った企業もあります。
変化が激しい中で、「自分の会社にとって何が正しい選択なのか」を見つけることは大変難しくなっています。
「採用人事戦略」においても、これからはAI・ロボットテクノロジー導入など従来的で画一的な「人材活用の考え方」では通用しない時代が来ました。
そして局面の経営課題を解決していくのも、まぎれもない「会社の人財」です。

2 企業採用文化の確立

 ある大手人材会社のトップの方と会談した時、「採用は文化である」という話しを拝聴しました。経営のキーワードで「グローバルスタンダード」という言葉がありますが、 国際標準の考え方を採用戦略にも活かしていこうと私達の人材業界でもよく言われたものです。確かに重要な採用方針ですが、それがすべてではありません。
「グローカルに馴染んだ雇用の考え方とは何か」「地域としての採用文化とは何か」そして、「その会社が持っている採用理念とは何か」。 企業文化があるように、その会社独自の採用文化が大切なのではないかと考えます。「経営」は継続して栄える「継栄:けいえい」が重要であるとよく言われるように、 経営理念・経営方針のもと採用理念に基づいた人材採用と育成という原点に立ち返る。「人材をキャピタルと考えて採用方針を立てていくのか、あるいはリソースと考えて採用方針を立てていくのか」 景気に左右されない「人材戦略」を考え、景気に左右された「人材戦術」を実施していくのが、企業の発展に大切なことです。

3 変革の時代だからこそわかる会社の本質

 静岡の会社を数多く訪問してきて思うことがあります。
人には第一印象があるように、会社にも第一印象があります。 初めてその会社を訪問した瞬間に感じる「会社の性格」は100社あれば100通りあり、さらに「会社の性格」は変化します。変革の時代だからこそ見えなかった「会社の本質」が見えてきます。
その会社の性格を形成していく人財。貴社では次世代を担う若手リーダーは育っているでしょうか。若手社員のモチベーションを高め育成し、部門としての目標結果を出せる管理職リーダーはいるでしょうか。 その場しのぎの場当たり的な人材採用ではなく、経営と人事ビジョンに沿った採用・育成戦略が、今だからこそより重要であると思います。
企業の継続発展には、成長の可能性を持った人材の採用と管理職のリーダー教育が欠かせません。

4 採用力を高めるビッグチャンス

 具体的には採用戦略において、企業は採用コンピテンシー(採用したい人材基準)を明確にすることから始めます。
そこから求職者の動きを予測することによって、それに連動した採用戦術を立てていく。これが効率とポイントを押さえた採用活動に繋がります。
企業が人材採用を行う時、書類選考だけでは見抜けない部分が多々あります。
それは「企業ベクトルと求職者のビジョンが同じ方向を向いているかどうか」「企業風土と求職者のタイプがマッチしているかどうか」「会社への貢献につながるポテンシャルとスキルがあるかどうか」 などです。だからこそ求職者と会う機会を増やすために、母集団形成につながるネット戦略やガイダンス等をどのように活用するかが重要です。
一般的な採用戦術では数多くの競合企業の情報に埋もれてしまいます。「この会社で働く喜び」を求職者側に様々なツールを活用してプレゼンしていくことが「攻めの採用戦術」です。
採用難の今こそ、経営者と採用担当者の力量が試されます。簡単に人が集まらない今だからこそ、採用という仕事の醍醐味を味わう時代到来です。

長崎 一朗
■ 人材サポート代表
■ NPO日本プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー協会 副理事長
■ 大学・専門学校におけるキャリアデザイン論講師

リクルートグループ出身。
キャリアカウンセラーとして、学生から中高年と幅広い年代への就職支援の実績は15年以上になる。
また企業への経営コンサルタントや社員研修(▶ 人材サポートHP)を実施しており、 今まで静岡県内の企業訪問は3,000社を超える。
大学・専門学校では「キャリアデザイン論」等年間授業の講師として学生へ支援。
就職指導を行うキャリアカウンセラーの育成とレベルアップにも力を入れており、今まで600人以上がキャリアカウンセラー養成講座を受講している。
静岡放送 SBSラジオ「長﨑一朗の仕事のコツ」パーソナリティ
著書「長﨑一朗の就活のコツ」「40歳からの再就職表裏マニュアル」など