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No.209 生産性向上のはなし

コロナの影響はまだまだ収まりませんが、その事は一旦置いておきます。

今回は、生産性向上のはなしです。

■ 生産性とは

生産性 とは〔投入(エネルギー・人・材料・設備稼働)〕に対し〔産出(製品・付加価値)〕の効率がどうなのか、を表します。
例えば一つの製品をつくる際に、通常なら3人投入するところを、1人減らして2人投入とし、同じ時間で完成できたなら、それは「生産性が高い」ということになります。また、投入コストが少ないため、利益が増えます。

計算式では、
生産性=産出(アウトプット)/ 投入(インプット)
で示されます。

「生産性が上がる」ということは、「利益・付加価値を生む力が高くなる」ということです。

すべての仕事単位で生産性向上・業務効率化が進めば、次に各企業が狙うのは「少人化」です。
少人化が進めば「一人当り限界利益額」が増加します。
またそれと同時に「固定費総額の削減」が進んでいるはずです。
※ただここは「雇用の維持」の問題と合わせて考える必要があります。

以上の事が、同時に実現できたとき、会社全体の「生産性向上ができた」と言え「利益の増加」につながります。

しかしながら、各企業では、生産性向上が思うように進んでいないという現状があります。
そこには、2つの問題があると考えています。

■ 問題1 IT投資に関わる考え方の問題

〇 日本の生産性向上の現状

先進国において、日本は「生産性低下・一人当り賃金低下」という現況にあります。

〔1人当りGDP〕 単位:USドル
※GDP 国内総生産

1995年
2018年
増減率
日本
43,441
3位
39,304
26位
90.5%
アメリカ
28,671
10位
62,869
9位
219.2%
ドイツ
31,830
6位
47,662
16位
149.7%

〔1人当り賃金〕 単位:USドル

1997年
2015年
増減率
日本
36,249
11位
35,780
17位
98.7%
アメリカ
46,415
3位
58,714
2位
126.5%
ドイツ
39,446
9位
44,925
11位
113.9%

このデータからみると、アメリカ・ドイツと比較し、日本は「生産性向上が停滞、賃金に反映できていない」ということになります。
また先進国における日本の順位が「下降傾向にある」のも気になるところです。

更に、企業の労働分配率の平均データをみていきます。
労働分配率は、限界利益における人件費の割合を示す指標です。
この比率が高ければ「人に委ねる仕事の割合が高い」ということです。
逆に低ければ「人に委ねる仕事の割合が低い = 効率化できている」と言えます。
※ 労働分配率=人件費/限界利益

〔労働分配率〕

2005年
2016年
日本
48.0%
48.4%
アメリカ
53.7%
52.7%
ドイツ
49.4%
50.0%

これをみると、日本は「生産性が低下 × 賃金低下 × 労働分配率上昇」となっており、生産性改善が遅れていると言えます。
それに対して、アメリカは「生産性が大きく上昇 × 労働分配率低下、結果として一人当り賃金額が上昇」しています。注目すべきは、生産性向上と賃金上昇がバランスよく実現できているところです。

〇 他国に見る生産性向上のポイントは何なのか

世界の各企業の経営者に対して行ったアンケートにおいて、興味深いデータがあります。出展/第20回世界CEO意識調査日本分析版

「現在の経営環境を前提に新たな機会を活用するために最も強化したい項目を選んでください」との問いに対して、
「デジタルおよびテクノロジーに関する能力」を挙げた割合は、
世界のCEOで15%だったの対して、日本のCEOは4%にとどまりました。

「今後12カ月の自社の売上高の成長の見通しについてどれだけの自信を持っていますか」との問いに対して、
「自信がある」と答えたのは、全体平均38%、英41%、米39%、中国35%に対して、日本14%でした。

また、「研究開発費のうちIT分野に投資している割合は何%か」との問いに対しては、
米独は「10%~19%」が最も多かったのに対して、日本は「0~4%」が最も多く、日本企業のIT分野への研究開発投資は低調である、ということがわかります。

その具体的なポイントとして、
(1)IT分野の商品・サービス開発投資・研究開発投資の遅れ
(2)IT分野の人材育成投資の遅れ

が挙げられます。
本来なら、IT投資が上手く進めば「少人化→生産性向上」ができるはずですが、そこへのアクションが不足しているということです。

これらからわかることは、
日本企業の経営者は「技術革新のスピードの早さに強い脅威を感じているにもかかわらず、デジタルおよびテクノロジーに関する能力を強化しようとしていない」という現実です。不確実な将来や急激な技術変革を目の前にして、自社を成長に導く自信がなく、立ちすくんでいる様子がうかがえます。

以上から、日本とアメリカなどと比べて「生産性向上+賃金上昇」がはかれなかった要因として「IT分野への投資の遅れ」が大きく影響しているものと推察できます。

〇 IT投資の目的の捉え方

IT分野への投資が少ないことだけでなく、情報化投資の内容が「コスト削減・人員削減」を指向する「守りの投資」が主流であることも、日本で賃金が上がらない理由です。

日本の情報化投資の特徴は、業務プロセスの効率化を目指したものが全体の半分を占めており、「ビジネスモデルの開発・売り上げ増」を指向する「攻めの投資」は少ないのが現状です。

情報化投資による労働生産性の上昇効果を見れば、新しい製品・サービスの開発や既存の製品・サービスの高付加価化を目指した場合は4倍に上がるのに対して、省力化投資による労働生産性の上昇は1.1倍にとどまります。
「コスト削減・人員削減」から生み出される利益は微々たるものでしかなく、利益率が1%でも改善すればいい方でしょう。

その「投資対リターン」の低さが、「情報化投資はもうからない」という思い込みを経営者にもたらし、ますます経営者は情報化投資に悪いイメージを持つようになるという悪循環、負のスパイラルに陥っています。
こうした「守りの投資」は、働き手のやる気などにも悪影響を及ぼし、結局、生産性が上がらず、そして賃金が上がらない悪循環を作り出しています。
「1人の仕事がより増えて忙しいが、それに反して賃金は増えず、社員の不満は大きくなっている」というのが実態です。

■ 問題2 経営者と社員の関わり方の問題

会社にとって大事なのは、利益の確保です。
ただ、会社の利益確保の考え方を社員に説明するだけで、生産性向上は進むのでしょうか?

答えはNOです。

働く人たちにとって大事なことは、
①働く場所があること
②仕事があること

です。

実は「会社における生産性向上活動」とは「働く人たちの仕事を奪うこと」につながる可能性があります。
会社が強力に生産性向上活動を進めれば、そこに働く人たちの仕事は減少していきます。

ここに、生産性向上が進まないジレンマがあります。

「我が社は生産性向上するぞ」と経営者が声高に叫ぼうとも、社員は納得して、素直に活動には移せません。
何故なら「自らの活動により、自分の仕事が無くなるかもしれない」からです。

活動開始にあたり、経営者が「生産性向上により利益を確保していくことは、皆さんのためでもあります。自分たちの給料は自分たちで確保していきましょう。」と言ったとします。

経営的にはもっともな話なのですが、聞いている社員側は釈然としない感情にとらわれます。
「会社に利益が上がらなければ、給料は上げられないぞ」
という経営者の本音が透けて見えているからです。
これでは、ある意味で脅迫と同じです。

社員側の本音をとらえると
「賃金がそのままなのに、なぜ頑張らなければいけないんだ」
「会社の利益を確保するのは経営者の仕事。自分たちは仕事を頑張るだけ。頑張った結果として、より高い給料がほしい」です。

ここで考えなければいけないことは「単なる生産性向上」という方向づけでは「真の生産性向上」は実現できないということです。

会社側が成果を追うならば、社員側にもその活動により享受できるメリットを提示していかなければ、真の活動は進みません。
社員個々が頑張る理由づけにつながるよう、活動成果のメリットを提示しておくということが大事です。

■ 先々の生産性向上の方向性を考える

これからも労働人口の減少は進み、既存の業務への配置はほぼ不可能となっていきます。

しかしながら「業務はそのままで生産性は上げたい」「頑張って(マンパワーで)生産性を上げていきたい」というのには限界があります。

「先々の会社の業務の姿をどういう形にするか」
「生産性向上の最終到達点をどうするか」

という目的・方向性と到達点を考えていくことで答えが出てきます。

その先に、真の生産性向上・競争力確保の実現が果たせることでしょう。

株式会社シーアークス HP